安室と警察学校組セレクション
安室透——その正体は公安警察の降谷零。彼にはかつて、警察学校で共に汗を流した4人の仲間がいました。萩原研二、松田陣平、伊達航、諸伏景光。しかし物語が現在に追いつく頃には、そのうち4人がすでにこの世を去っています。生き残った降谷零が、なぜあれほど執念深く黒の組織を追い続けるのか——その理由は、この5人の絆と喪失の物語を知ってこそ見えてきます。
今回は「安室透という男」「スコッチの真実」「警察学校編 Wild Police Story」「残された者たち」「劇場版 ハロウィンの花嫁」という5つの切り口で、警察学校組セレクションをお届けします。
安室透という男編
#667-668「ウェディングイブ(前編/後編)」(2012-09-01/09-08)
安室透の初登場回です。伴場頼太と加門初音の結婚式前夜祭を舞台にした事件にコナン・小五郎が巻き込まれる中、安室はウェイターとして会場に潜入していました。この事件をきっかけに、安室の毛利小五郎への弟子入りと喫茶ポアロでのバイトが始まります。
#702-704「漆黒の特急ミステリートレイン」(2013-07-20〜08-03)
新幹線内で密室殺人が発生し、バーボン(安室)の正体が視聴者に確定づけられる重要回です。世良真純、沖矢昴(赤井秀一)も同じ車両に乗り合わせ、組織の主要人物たちが一堂に会する緊張感あふれる長編アークになっています。
#705-706「密室にいるコナン/謎解きするバーボン」(2013-08-10/08-17)
鈴木財閥の別荘で密室殺人が発生する回です。この事件を通じて、コナンは安室=バーボンだという確信を強めていきます。安室の関心が小五郎からコナンへと移っていく、心理的な転換点として描かれる一本です。
#779-783「緋色シリーズ(序章/追求/交錯/帰還/真相)」(2015-05-30〜06-27)
安室透の正体が公安警察官・降谷零であることが明かされるクライマックスです。同時に沖矢昴=赤井秀一の正体も判明し、シリーズ屈指の情報量を誇るアークとなっています。かつての同僚への複雑な想いをうかがわせるやり取りもあり、のちに明らかになる警察学校組の過去への布石にもなっています。
スコッチの真実編
#866-867「裏切りのステージ(前編/後編)」(2017-07-15/07-22)
公安の潜入捜査官スコッチ——のちに諸伏景光その人だったと判明する人物——が、黒の組織への潜入中に正体が露見し落命した夜の真相が描かれる回です。この事件をめぐって安室と赤井の関係は決定的に悪化し、安室が赤井を許せない理由がここで明確になります。警察学校組の悲劇が、初めて具体的な形で読者・視聴者の前に示される一本です。
警察学校編 Wild Police Story
#1029「警察学校編 Wild Police Story CASE.松田陣平」(2021-12-04)
降谷零と松田陣平の出会いを描く第一話です。入校前後に殴り合う対立から始まる2人の関係性、松田の父親が濡れ衣で逮捕されボクサーとしてのタイトル戦を潰されて酒に溺れた過去、そして銃弾窃盗の疑いをかけられた松田を降谷が信じ抜く姿が描かれます。「驚いたな…僕の拳を食らって立っている奴がいるとはな」「へっ!そいつはこっちの台詞だぜっ!」という殴り合い後のやり取りが印象的です。
#1038「警察学校編 Wild Police Story CASE.伊達航」(2022-03-12)
逮捕術の授業で降谷に勝利した伊達が、降谷が自分の負傷した膝を狙わなかったことに不満を示し「誰よりも強くなければ、正義は遂行できない」と告げる回です。非番中にコンビニ強盗に遭遇し土下座する父の姿を見てショックを受けたことが、伊達の強さへのこだわりの原点として描かれます。クライマックスでは、コンビニに閉じ込められた降谷たちが看板の明滅でモールス信号を送り、それに気づいた諸伏たちが応援を呼ぶという、5人のチームワークが光る場面もあります。
#1042「警察学校編 Wild Police Story CASE.萩原研二」(2022-05-07)
降谷・伊達・松田・諸伏の4人が合コンに参加し、萩原に誘われて頭数合わせで付き合わされる回です。「来る途中おばあちゃんを助けていて遅刻した」と言いつつ場を盛り上げる萩原の人柄が印象的です。翌日、警察学校でスポーツカーを見つけて熱弁する萩原ですが、実はこれは殉職した先輩刑事の愛車で、その娘が刑事を目指すまで預かっていたという裏設定が明かされます。
#1061「警察学校編 Wild Police Story CASE.諸伏景光」(2022-10-29)
罰として浴場清掃を命じられた5人が、行方不明少女の情報に偶然遭遇する回です。街で少女を見かけていた諸伏が話を避けようとする中、仲間4人が「お前は死なない」と声をかけ、諸伏が15年前に両親が被害者となった事件を語り出します。炎上する家の階段を駆け上る諸伏の姿が回想として描かれ、5人で真相を追う展開が軸になっています。
残された者たち編
#1003-1005「36マスの完全犯罪パーフェクトゲーム」(2021-04-24〜05-08)
雪に閉ざされた廃教会での連続殺人事件です。安室透と、諸伏景光の兄にあたる長野県警の諸伏高明警部が登場し、暗号解読が絡む展開が繰り広げられます。コナンが安室からRUM(ラム)に関するヒントを得る重要回でもあり、諸伏家を通じて亡き諸伏景光の存在が静かに示される一本です。
#1109-1110「高木と伊達と手帳の約束(前編/後編)」(2024-01-06/01-13)
伊達航は、徹夜の張り込み明けの居眠り運転による交通事故ですでに殉職しています。高木渉とは「渉」の読みが同じことから伊達が「ワタルブラザーズ」と名付けた間柄で、警察学校時代からの後輩である高木の面倒を見てきた存在でした。高木が伊達の形見の手帳に残された暗号を発見し、コナンが解読することで未解決事件の手がかりに繋がっていきます。伊達の遺志と人柄が、残された高木に受け継がれていく回です。
#1184-1185「赤レンガ倉庫 消えた誘拐犯(前編/後編)」(2025-12-06/12-13)
誘拐された少女からのSOSを受け、米花のコナンと横浜の萩原千速(萩原研二の姉、神奈川県警交通部)が2拠点で捜査にあたる回です。千速は、弟・研二を死なせた爆弾犯事件をコナンが解決したことに深い恩を感じています。警察学校組本人たちの直接登場はありませんが、研二を失った家族のその後を描く一本として位置づけられます。
劇場版「ハロウィンの花嫁」
2022年4月15日公開、シリーズ25作目の劇場版です。3年前の11月6日、萩原研二の墓参りの帰りに降谷・松田・伊達・諸伏の4人が仮面の爆弾犯「プラーミャ」に遭遇したという過去が、本編の事件と絡み合う構成になっています。松田が爆弾を解体し、降谷と諸伏が犯人の肩を撃ち抜くも取り逃がす——この因縁が劇場版のクライマックスに直結します。
本編の時間軸ではすでに松田・萩原(殉職)、伊達(事故死)、諸伏(潜入捜査中の死)の4人が世を去っており、降谷零だけが生き残っています。5人の絆と、降谷が背負い続ける喪失こそが、この作品の核となっています。
まとめ
殴り合いから始まった降谷零と松田陣平の出会い、頭数合わせの合コンで見せた萩原研二の人懐っこさ、負けん気の強い伊達航、そして15年越しの事件を抱えていた諸伏景光——警察学校で青春を過ごした5人のうち、いま生きているのは降谷零だけです。
ちなみにファンの間では、萩原と松田の命日が11月7日、諸伏が12月7日、伊達が2月7日と、全員「7日」で揃っていることが有名な符合として語られています。偶然にしてはできすぎた、切ない一致です。
降谷零が黒の組織を追う執念の裏には、いつもこの4人の面影があります。次回は原作重要回セレクションをお届けする予定です。あわせてお楽しみください。