劇場版セレクション
『名探偵コナン』の劇場版は、1997年の第1作から毎年ゴールデンウィークに公開される国民的アニメ映画シリーズとして、2026年で29作を数えます。今回は全29作品を公開順に振り返り、それぞれの見どころや制作エピソード、興行成績をまとめました。
第1弾〜第7弾 こだま兼嗣監督時代(1997〜2003)
シリーズを立ち上げた、こだま兼嗣監督による最初の7作です。脚本は基本的に古内一成が担当し(第6弾のみ野沢尚)、怪盗キッド・服部平次・遠山和葉・灰原哀といった以後の準レギュラー勢が次々に劇場版デビューを飾った、シリーズの土台を作った時期でもあります。
第1弾「時計仕掛けの摩天楼」(1997-04-19)
シリーズ記念すべき劇場版第1作です。世界的建築家・森谷邸のパーティを発端に、東都の街を狙う連続爆破事件へと発展します。新一が蘭に爆弾の赤コードと青コードのどちらを切るか託す場面が名場面として語り継がれています。監督はこだま兼嗣、脚本は古内一成によるオリジナルストーリーで、興行収入は11億円でした。
第2弾「14番目の標的[ターゲット]」(1998-04-18)
目暮警部、妃英理、阿笠博士など小五郎の身近な人物が、名前に含まれる数字にちなんで13から1まで狙われる連続殺人予告事件です。妃英理と秘書・栗山緑が劇場版に初登場し、本作で初めて明かされた目暮十三・白鳥任三郎のフルネームは、後に原作漫画の設定にも逆輸入されました。興行収入は18億5000万円です。
第3弾「世紀末の魔術師」(1999-04-17)
ロシア皇室の秘宝「インペリアル・イースター・エッグ」を巡り、怪盗キッドが予告状を出して事件に絡みます。怪盗キッド、服部平次、遠山和葉、灰原哀といった、以後準レギュラー化する重要キャラクターが軒並み劇場版に初登場する記念碑的な一本で、興行収入26億円・観客動員216万人を記録しました。
第4弾「瞳の中の暗殺者」(2000-04-22)
パーティ会場で佐藤刑事が銃撃され重傷を負い、居合わせた蘭が責任を感じてショックのあまり記憶を喪失、自身も狙撃犯に狙われていく展開です。推理・サスペンス・アクション・恋愛のバランスが高い次元で調和した、フェアなフーダニットとして推理ファンからの評価も高い一本です。興行収入は25億円でした。
第5弾「天国へのカウントダウン」(2001-04-21)
超高層ビル「ツインタワー」での殺人事件に、かつて新一に毒薬を飲ませた黒の組織のジンが姿を現します。黒の組織が劇場版シリーズに初めて本格登場した記念碑的作品で、灰原哀が自らの過去と向き合う場面が最大の見せ場として評価されています。興行収入は29億円でした。
第6弾「ベイカー街[ストリート]の亡霊」(2002-04-20)
仮想体感ゲーム「コクーン」に参加したコナン一行が、人工頭脳にシステムを乗っ取られ、ジャック・ザ・リッパー事件とシャーロック・ホームズの世界観を組み合わせた仮想ロンドンに閉じ込められます。脚本が古内一成から江戸川乱歩賞作家・野沢尚に交代した回で、コナンと父・工藤優作の関係性にも焦点が当たり、「初期作品で一番好き」と挙げるファンも多い一本です。興行収入は34億円でした。
第7弾「迷宮の十字路[クロスロード]」(2003-04-19)
京都を舞台に、古美術品狙いの窃盗団メンバーが相次いで殺害される事件です。服部平次・遠山和葉の関係が大きく前進し、8年前の初恋の相手が和葉自身だったと判明する場面は屈指の感動ポイントとして知られています。京都の景観の美しさから「聖地巡礼をした」というファンの声も多く、主題歌は倉木麻衣「Time after time〜花舞う街で〜」でした。興行収入は32億円でした。
第8弾〜第14弾 山本泰一郎監督時代(2004〜2010)
こだま兼嗣から監督を引き継いだ山本泰一郎による7作です。脚本は古内一成が引き続き担当し、黒の組織の本格再登場(第13弾)や鈴木次郎吉の劇場版デビュー(第14弾)など、原作ファンにとって重要な要素が積み重なった時期でもあります。
第8弾「銀翼の奇術師[マジシャン]」(2004-04-17)
舞台女優の宝石「スターサファイア」を怪盗キッドから守る依頼を受けたコナン一行が、飛行機内でのトラブルにも巻き込まれます。監督がこだま兼嗣から山本泰一郎に交代した最初の作品で、5年ぶりに怪盗キッドがメイン級で再登場しました。興行収入は28億円でした。
第9弾「水平線上の陰謀[ストラテジー]」(2005-04-09)
鈴木園子の招待で豪華客船アフロディーテ号に乗船したコナン一行が、園子の拉致・監禁事件や船内殺人事件に巻き込まれます。毛利小五郎がコナンの睡眠推理に頼らず自力で真相を解き明かす数少ない回として、小五郎ファンから「かっこいい」と評価されている一本です。興行収入は約21億5000万円でした。
第10弾「探偵たちの鎮魂歌[レクイエム]」(2006-04-15)
シリーズ10周年を飾るオールスター作品です。謎の依頼人に招かれた横浜の遊園地で、時限爆弾付きIDカードを渡され、園外に出ても起爆するという二重の脅迫を受けます。白馬探と横溝重悟警部が劇場版に初登場し、少年探偵団や主要刑事キャラも総出演。第30回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞しましたが、「オールスターの割にスケールが小さい」との賛否もありました。興行収入は30億3000万円でした。
第11弾「紺碧の棺[ジョリー・ロジャー]」(2007-04-21)
女海賊の財宝伝説が残る離島でのバカンス中、トレジャーハンターが鮫に襲われ死亡する事件です。冒頭のカーチェイスにルパン三世と峰不二子が登場し、「佐藤刑事の初恋の人がルパン三世」という設定が初めて描かれ、後の『ルパン三世VS名探偵コナン』にもつながりました。第31回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した一方、推理要素の薄さを指摘する声も根強く、シリーズ屈指の評価が分かれる作品としても知られています。興行収入は25億3000万円でした。
第12弾「戦慄の楽譜[フルスコア]」(2008-04-19)
元ピアニストの門下生たちが次々殺害される事件を、絶対音感を武器にコナンが追います。ソプラノ歌手・秋庭怜子がコナンの相棒役を務める、劇場版で初めてのパターンとなりました。読売テレビ開局50周年・週刊少年サンデー創刊50年記念作品で、第32回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞。上映時間115分はシリーズ最長クラスで、ZARDが主題歌を担当した最後の劇場版でもあります。興行収入は24億2000万円でした。
第13弾「漆黒の追跡者[チェイサー]」(2009-04-18)
東京・神奈川・静岡・長野で発生した6件の連続殺人の現場に麻雀牌が残されるという不可解な事件です。捜査会議に潜入していた黒の組織メンバーにコナンが気づき単独捜査に乗り出す、黒の組織が2001年の第5作以来8年ぶりに本格登場する回で、オリジナル幹部「アイリッシュ」も登場します。第33回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞し、興行収入は35億円でした。
第14弾「天空の難破船[ロスト・シップ]」(2010-04-17)
世界最大の飛行船ベルツリー号に載せた宝石を怪盗キッドが狙う中、殺人バクテリアを奪ったテロ組織からの脅迫も重なります。鈴木次郎吉が劇場版に初登場し、2014年に逝去した永井一郎にとって唯一の映画出演作となりました。回想を含め作中で死者が一人も出ない、シリーズ初の劇場版でもあります。第34回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞し、興行収入は32億円でした。
第15弾〜第21弾 静野孔文監督期とオールスター拡大(2011〜2017)
山本泰一郎が総監督を務めた第15・16弾を経て、静野孔文が単独監督を務めた時期です。海上自衛隊全面協力(第17弾)や連載20周年記念作(第18弾)、シリーズ初のアートミステリー(第19弾)など話題作が続き、第20弾以降は黒の組織・安室透・赤井秀一が絡む縦軸が本格化してファン人気がさらに拡大しました。
第15弾「沈黙の15分[クォーター]」(2011-04-16)
再選した都知事への脅迫状をきっかけに、地下鉄トンネル爆破、そして新潟の雪深い村での不可解な死体発見へと展開します。戦場カメラマン・渡部陽一が新潟県警の刑事役で声優出演し、「本人そのもの」の演技が高評価を得ました。シリーズで初めて雪国を舞台にした作品で、B’zが主題歌を担当するのは本作で4作目、ZARD・倉木麻衣を抜いて歴代最多となりました。第35回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞し、興行収入は31億5000万円でした。
第16弾「11人目のストライカー」(2012-04-14)
毛利探偵事務所への脅迫電話と路上での車の爆発をきっかけに、サッカー観戦中のコナンが暗号解読に挑みます。Jリーグ20周年コラボで三浦知良、遠藤保仁、楢﨑正剛、中村憲剛、今野泰幸ら現役選手が本人役で出演したことが話題になりました。「爆弾の捜索・解除」が主軸になるのは第1作以来で、興行収入は32億9000万円・初登場1位を記録しました。
第17弾「絶海の探偵[プライベート・アイ]」(2013-04-20)
海上自衛隊の最新鋭イージス艦の体験航海中、艦が攻撃を受け自衛隊員の左腕が発見されるという海上サスペンスです。防衛省・海上自衛隊が企画段階から全面協力し、非公開区画の戦闘指揮所まで取材した本格派で、当時のシリーズ最高興収36億3000万円を記録しました。一方、作中に描かれた旭日旗の影響で、シリーズ中唯一韓国で劇場公開されていない作品でもあります。
第18弾「異次元の狙撃手[スナイパー]」(2014-04-19)
新タワーのオープニングセレモニーでの銃撃事件を、コナンが女子高生探偵・世良真純とともに追います。世良真純と、赤井秀一の変装後の姿である沖矢昴が劇場版に初登場し、本編に先駆けて赤井の正体が示唆される、シリーズ史的に重要な回です。連載20周年記念作品として第38回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞し、シリーズ史上初めて興行収入40億円を突破(41億1000万円)しましたが、脚本面での粗さを指摘する声も一定数ありました。
第19弾「業火の向日葵」(2015-04-18)
ニューヨークのオークションで史上最高額落札されたゴッホの「ひまわり」を巡り、世界に散らばる7枚の「ひまわり」を集めようとする鈴木次郎吉と、怪盗キッドの犯行予告にコナンが挑む、シリーズ初のアートミステリーです。コナンとキッドの共闘描写や、キッドの人間味ある動機描写が「個人的シリーズNo.1」と挙げるファンもいるほど好評でした。興行収入は44億8000万円でした。
第20弾「純黒の悪夢[ナイトメア]」(2016-04-16)
記憶喪失になった組織メンバー「キュラソー」を巡り、警察・公安・FBI・黒の組織・少年探偵団が入り乱れる展開です。安室透、赤井秀一、水無怜奈(RUM関連)、灰原哀ら組織潜入組が一堂に会する”神コラボ”回として、安室透の劇場版初登場作でもあります。前作から約20億円増となる当時のシリーズ最高興収63億3000万円を記録しました。
第21弾「から紅の恋歌[ラブレター]」(2017-04-15)
大阪・読売テレビでの爆破事件と、百人一首「皐月杯」を巡る事件に、服部平次・遠山和葉が巻き込まれます。平次の自称婚約者・大岡紅葉が新規登場し、和葉とのかるた対決も見どころです。2017年邦画興行収入ランキング1位となる68億9000万円を記録し、日本アカデミー賞アニメーション作品賞も受賞しました。
第22弾〜第29弾 監督交代が相次ぐ中でのシリーズ最高記録更新期(2018〜2026)
立川譲・永岡智佳(シリーズ初の女性監督)・満仲勧・重原克也・蓮井隆弘と監督が目まぐるしく交代する一方、興行収入・観客動員はシリーズ最高記録を何度も更新し続けた時期です。安室透・警察学校組・灰原哀といった縦軸の集大成が描かれ、直近2作は2年連続で観客動員1000万人を突破しました。
第22弾「ゼロの執行人」(2018-04-13)
爆破事件の容疑者として逮捕された毛利小五郎の無実を証明するため、コナンが真相を追う「正義」がテーマの一本です。安室透(降谷零)が2年ぶりにメインキャラとして登場し、公安捜査官かつ組織潜入というトリプルフェイスの魅力で安室人気に火をつけた作品として知られています。シリーズ最高興収91億8000万円・日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を記録した一方、推理パートの弱さを指摘する声も一定数あり、賛否が分かれた作品でもあります。
第23弾「紺青の拳[フィスト]」(2019-04-12)
シンガポールで発見された世界最大のブルーサファイアを巡る事件に、空手トーナメント観戦中のコナンが挑みます。シリーズ初の女性監督・永岡智佳が手がけ、既に対決経験のある京極真が初めて劇場版メインキャラとして活躍。シリーズ初の海外(シンガポール)ロケ地となり、マリーナベイサンズなどの映像美が高評価でした。7作連続でシリーズ最高興収を更新する93億7000万円を記録した一方、推理・トリックの強引さを指摘する声も目立ちました。
第24弾「緋色の弾丸」(2021-04-16)
新型コロナウイルスの影響で唯一、公開が1年延期された作品です。「WSGワールド・スポーツ・ゲームス」東京大会と時速1000kmの次世代リニア開発発表に沸く中、大会スポンサー企業トップが次々狙われます。赤井秀一を中心に、弟・羽田秀吉、妹・世良真純、母メアリーの「赤井ファミリー」が集結する回で、興行収入は76億5000万円でした。レビューサイトによって評価が大きく割れる作品でもあります。
第25弾「ハロウィンの花嫁」(2022-04-15)
佐藤刑事の結婚式中に事件が発生し、脱獄した連続爆破犯と、同期・松田陣平を死なせた因縁の相手として降谷零(安室透)が対峙します。「警察学校組」5人(降谷零、松田陣平、萩原研二、伊達航、諸伏景光)が中心となり、松田陣平が本作で初登場。古参ファンから強い感情的反響を呼んだ一本で、興行収入97億4000万円・動員699万人を記録しました。
第26弾「黒鉄の魚影[サブマリン]」(2023-04-14)
顔認証新技術の実験施設「パシフィック・ブイ」で女性エンジニアが黒ずくめの組織に誘拐される事件に、灰原哀にも組織の影が迫ります。灰原哀と宮野志保の内面描写、灰原とのキス(人工呼吸)シーンなどがコ哀ファンから絶賛され、シリーズの一つの到達点との評も多数。公開3日で動員200万人・興収30億円を突破し、最終的にシリーズ最高興収138億8000万円・動員978万人を記録しました。
第27弾「100万ドルの五稜星[みちしるべ]」(2024-04-12)
北海道・函館の収蔵庫に予告状を出した怪盗キッドが、新選組副長・土方歳三ゆかりの日本刀を巡って五稜郭で争奪戦を繰り広げます。エンドクレジット後に赤井秀一が復活するサプライズ演出が大きな話題を呼び、動員1080万人超・興行収入154億円という歴代でも上位クラスの大ヒットとなりました。
第28弾「隻眼の残像[フラッシュバック]」(2025-04-18)
雪山で左眼を負傷し失明した長野県警・大和敢助を軸に、天文台研究員襲撃事件と小五郎の警視庁時代の元同僚「ワニ」からの情報が交錯します。初監督・重原克也が手がけ、1970年代の日本映画を思わせる重厚な作風と、大和敢助の失明の経緯という原作未描写エピソードが好評でした。前作に続き動員1000万人超え(約946万人・興収約137億円)を記録し、2作連続の1000万人突破という邦画史上初の快挙を達成しました。
第29弾「ハイウェイの堕天使」(2026-04-10)
横浜・みなとみらいのバイク祭典に向かう途中、暴走する黒いバイク「ルシファー」に遭遇するコナン一行を描きます。神奈川県警交通機動隊の萩原千速(警察学校組・故萩原研二の姉)が劇場版初登場のメインキャラとなり、松田陣平・横溝重悟との関係性も描かれました。公開3日間の動員・興行収入でシリーズ歴代1位のスタートを切り、2026年9月時点で興行収入136億円超と報じられています(最終的な確定額は未確認)。4年連続で興行収入100億円超えを達成した一方、ミステリー部分のひねりの弱さを指摘する声もありました。
まとめ
1997年の第1作から数えて29作、興行収入は右肩上がりを続け、直近2作は2年連続で観客動員1000万人を突破するという邦画史上初の快挙も達成しました。怪盗キッドや服部平次といった準レギュラーキャラの活躍、黒の組織や警察学校組といったシリアスな縦軸、そして安室透・赤井秀一を軸にしたファン人気の高まりなど、時代ごとに異なる魅力を積み重ねてきたのがこの劇場版シリーズです。来年以降どんな新機軸が飛び出すか、今から楽しみです。